2015-06-14

ヤンゴン追想、その2

ここ3週間で7つの町を歩き回っています。
いまのところいちばん面白かったのは、やはり最初のヤンゴンでしょうか。
ヤンゴン全体は郊外の新興住宅地も含めれば広いのですが、イギリス統治下で開けた旧市街は狭くて建物も古く、限られた土地を有効利用するために現在も上へ上へと伸び続けています。
戦前に作られた建築物は天井が高く、二階建てや三階建てが多いのですが、新しくなるにつれて天井が低くなり、旧建築の三階が新建築の四階という感じです。
そんな建物が入り交じってモザイクを形作っているのが、私のヤンゴンのイメージでしょうか。
ところでヤンゴンでしか見られなかった面白い生活の知恵というか、住人達の決めごとがあります。
どこでも見られるんだろうとタカを括って写真を撮らないでいたら、その後のマンダレーでは見られませんでした。
ちょっと拡大しても見えないと思うけど、写真を挙げておきます。
看板の前にロープが3本 

この家々の前に、それぞれの部屋のベランダからロープが降ろされているんです。 それがビルの前で何本もブラブラしてる。 で、その先にはだいたいクリップが付けられています。 ビニール袋や小さな袋が付いてるところもあるし、余所と間違えないように部屋番号が書かれていることも。 そんなものが部屋の数だけぶらさがっている訳ですから、道路に面したビルの一階は賑やかです。 ボケッとよそ見していて、クリップに頭を小突かれたことも屡々。 さて、このロープの使用法。 だいたい判ると思いますが。 たとえば近所の奥さんがやってきて、目指す家のロープを一階からグイグイと引っ張ります。 するとロープの上に着けてあるベルがベランダでチリチリと鳴って、家人が顔を出します。 「頼まれてたもん、持ってきたよ」 「助かるよ、いま引っ張るから」 てな感じで会話が交わされて、近所の奥さんが持ってきたビニール袋をクリップに留めると、上ではそれを引き上げるわけ。 場合によっては逆もあるのかも。 ちなみに鈴は家ごとに少しづつ音の違うものを買っているようです。 こうすることで、エレベーターのない高層住宅を上り下りする手間を省いているんでしょう。 ここで宅配なんかやったら、ぜったいに腰と膝を壊します。 あと、こういうルールが生きているのは、高い建築とはいってもせいぜい五階建て、六階建てくらいがスタンダードなヤンゴンだからでしょう。 それ以上高層になるとロープ自体が重くなり、また長くもなりすぎて危険です。 それに、そもそもそれ以上高くなったら、現在ではエレベーターが設置されるはずです。 ほぼすべての建築が、この中途半端な高さですから、こうした習慣が生まれたのでしょう。 こういう知恵が社会ルールとしてヤンゴンにだけ存在しているって、面白いと思います。 ある面では、エスカレーターの右を空けて使う東京ルールみたいな。 余談ですが、マンダレーにはこのルールはありません。 五階建てくらいの建物がないわけではありませんが、ほとんどが二階建てかせいぜい三階建て。 しかもヤンゴンのようにひとつのビルに多くの世帯が住むのではなく、ひとつの建物に一族というか、複合家族で住んでいるようなので、届け物も玄関で渡せば済んじゃうのではないでしょうか。

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